【『一流の人は知っている ハラスメントの壁』
著者:吉田 幸弘 先生からのメッセージ
――著者から皆さまへ 第5回】
2020年6月、大企業向けに
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
及び職業生活の充実等に関する法律(通称:労働施策総合推進法)」の改正、
いわゆる「パワハラ防止法」が適用され、
2022年4月には中小企業にも適用されます。
法律の施行により、ますますパワハラに対して厳しい時代が到来しました。
パワハラと同様に職場におけるハラスメントの代表格である
「セクハラ」に対しても規制の強化がされています。
このように「ハラスメント」に対する意識が高まり、
リーダーの方が
「注意したいけど、下手なことを言ってハラスメントになったらどうしよう」
などと、ハラスメントを過度に恐れるケースが出ています。
もちろん「ハラスメントの行為者」にならないように気をつける必要がありますが、
企業はそもそも業績を上げていかなくてはなりません。
また部下育成も大切な仕事の1つであり、
部下育成は長期的にみると「販売促進」のような位置づけにもなります。
部下の活動状況が良くなければ、時には厳しいフィードバックも必要です。
部下によっては、良いフィードバックばかりでは今後の自分の成長につながらないと感じ、
改善点があれば指摘してほしいと思っており、
厳しいフィードバックをしない上司には不満を抱いてしまうこともあります。
■ハラスメントかどうかの基準は?
ここで問題になってくるのは、ハラスメントの基準はどこにあるかということです。
具体的な例を挙げていきましょう。
Sさんに対して、Aさん、Bさんという2人の先輩がいたとしましょう。
別のシーンで2人がSさんに対して、それぞれ「バカヤロー!」と言ったとします。
同じことを言われたのに、
Aさんから言われると親しみを感じるのに、
Bさんから言われると「ハラスメント」と感じる、嫌な気持ちになる
という場合があります。
(ちなみに、「バカヤロー!」という言葉は、ハラスメントに抵触するので、使わないことをお薦めしたい言葉です。)
何が違うのでしょうか?
ひと言でいえば、「信頼関係があるか、ないか」です。
このようにハラスメントかどうかの境界線は、「信頼できるか、どうか」ということです。
信頼関係さえあれば、叱っても相手はハラスメントと感じないのです。
■信頼関係はどう作っていくか
信頼関係を作っていくには、
「部下がこのリーダーに話しても大丈夫」という心理的に安全な場を作ること、
いわゆる「心理的安全性」を確保する必要があります。
このために心がけたいのは次の3点です。
❶自分から愚痴・弱気を見せて相談しやすい雰囲気に持っていく
「心理的安全性の確保」をしようとし、
仮に上司から「なんか悩みはないか。何でも言っていいぞ」と突然言っても、
部下によっては「本当に大丈夫かな?」と思って話してくれないことも多いものです。
信頼関係のない状態ですと、
部下は「上司にこんなことを相談して叱られないか?」と
ためらってしまうものです。
「評価が下がるのではないか?」と思うかもしれません。
そこで、試していただきたいのが、
上司がちょっとした失敗談や愚痴を言ってみることです。
リーダーが愚痴を言うなんてと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、愚痴のなかには、会社や他人の悪口、誹謗中傷など悪いものもあります。
しかし、良い愚痴もあるのです。
たとえば、「テレワークでずっと家にいると腰が痛くなるな。だから体操が欠かせないな」
「昼過ぎになると眠気との戦いだよ。毎日コーヒー五杯飲んでいるよ」といった
ホロっとした気分になる愚痴なら全然いいことです。
❷性善説でも性悪説でもなく、性弱説で考える
テレワークの導入に伴い、ハラスメントが増えています。
今までは社内に一緒にいれば相手の様子が見えたのに見えなくなったのも1つの要因です。
部下に対して、サボるものという「性悪説」ではなく、「性善説」で考えたいものです。
しかし、無理に「性善説」で動こうとするのも難しいものです。
上司自身のストレスが溜まり、怒りやすくなり逆効果です。
普段は穏やかに接していても、ある日突然怒りを爆発させた瞬間、信頼は一気に消え失せます。
この場合、「性善説」でも「性悪説」でもなく、
「人は弱いもの」ととらえ、一人でいるとつい流されてダラダラしてしまう「性弱説」で考えればいいのです。
リーダーも部下も弱いものと考えるのです。
そうすると「監視」ではなく、「弱さを補完しよう」と、部下に対してポジティブな気持ちになれます。
❸感情のコントロールができるようにする
誰しも大なり小なり「怒り」の感情は持っています。
そのまま「怒り」の感情を部下に出してしまえばハラスメントになります。
一方でハラスメントをしないリーダーは、
感情をコントロールし、怒りをそのまま出しません。
怒りの感情が発生してしまったとき、頭の中を冷静にするための儀式、クールダウンをします。
深呼吸したり、水やコーヒーを飲むなどでもいいでしょう。
小さな子供や愛猫、好きな沖縄の海の写真などを見たら、
「怒りを爆発させてはいけない」なんて思えてくるのではないでしょうか。
ここで大切なポイントですが「怒ってはいけない」ということではありません。
もちろん叱ることは必要で悪いことではありません。
大切なのは感情をむき出しにしないことです。
また、怒りやすい人は「べき」や「常識」というこだわりを強く持っている傾向にあります。
もちろん譲れないこだわりもあるかもしれませんが、
「私も相手も正しい」と歩み寄ることも大切です。
たとえば、「メールの返信は2時間以内にすべきだ」と思っているリーダーがいたとしましょう。
でも、本当に2時間以内に返信する必要があるのでしょうか。
確かに急を要するものもあるかもしれませんが、
実際に問題になった事例がなければ
部下からの返信が2時間を過ぎてもよいのではないでしょうか。
「緊急の時は電話で対応」などと決めておけばいいでしょう。
〔寄稿/人財育成コンサルタント:吉田 幸弘〕
『一流の人は知っている ハラスメントの壁』
吉田 幸弘/著 定価:1100円(本体1000円+税10%)
ISBN:978-4-8454-5134-0
造本:ロング新書
「自分は大丈夫」と思っていませんか?
「良かれと思って」「そんなつもりはなくて」でも、
たったひと言で、ハラスメントの壁を越えて、
すべてを失うこともあります。
ハラスメントの境界線はお互いの「信頼関係」
3万人の管理職を見てきたプロが教える、
一流のコミュニケーション術。
*
【読者のみなさまへ 著者:吉田幸弘からのメッセージ】
新たな法律の制定によりハラスメントに厳しい時代が到来しました。
「叱ってはいけない」などと不要にハラスメントを
恐れてしまっている人もいるかもしれません。
そんな困っているリーダーの方々の参考になるように、
正しくハラスメントの意味を理解しておけば
何も恐れる必要はないということをお伝えしたく、本書を書きました。
本書は裁判例や法律の観点からではなく、
3万人以上のリーダーと接してきた著者が現場の視点から解説をしたので、
実践的な一冊になったと自負しております。
読みやすいように事例も豊富に織り交ぜました。
本書をお読みいただくことで、
「ハラスメントに対する不安」は何もなくなるかと思います。
ぜひお手にとってみてください。
〔吉田幸弘〕
*
「良かれと思って」「そんなつもりはなくて」
でも、たったひと言で、ハラスメントの壁を越えてすべてを失うこともあります。
「自分は大丈夫」と思っている人も、
いつの間にかハラスメント行為者になっていることも。
だからと言って「パワハラ扱いされるのではないか」とリーダーが不要に怖がって、
部下に「何も言わない」「注意をしない」では強い組織はつくれません。
怒鳴ったり、精神的圧迫を与えるのはハラスメントですが、
部下の行動改善を目的に「叱る」ことは
むしろリーダーの役目です。ハラスメントの境界線は「信頼関係」
3万人の管理職を見てきたプロが教える、一流のコミュニケーション術です。
*
【目次】
まえがき
プロローグ ハラスメントがより問題になってきている
── 大切なのは信頼関係をしっかりつくること
法律によりパワハラに厳しい時代が到来
セクハラの規制も強化された
新しいハラスメントの出現
ハラスメントの境界線は相手側にある
良かれと思ってやっていることがハラスメントになることも
部下の行動改善を目的に「叱る」ことはむしろ必要
ハラスメントの壁を把握して叱って成長させる
第1章 良かれと思っているのは自分だけ? 相手を怒らせる危険な言葉
1 たった一語で相手への印象は「天」と「地」の差になる
2 気遣いが時に相手を怒らせる!
3 間違いは指摘してあげたほうがいい?
4 順番・秩序を軽視すると危険です
5 安心感を与えたつもりの言葉がパワハラになることも
6 パフォーマンスの悪い部下ばかりにフォーカスしてはいけない
7 部下から上司へ、逆ハラスメントを受けたらこう対応しよう
8 打ち解けたいと思っているのはあなただけかもしれません
9 LINEを使う時の注意点
10 年齢・性別・国籍によるハラスメントをしないように注意しましょう
11 みんなの前ではなく一対一で褒める
12 上から目線に感じられる言葉を使わない
第2章 問題が起きる前に まず聞き上手になろう
1 人は思っているほど相手の話を聞いていない
2 相手が話しにくくなる相づちは使わない
3 話題を奪う人にならない
4 質問したからといって、相手は話を聞きたいわけではない
5 物わかりのいいふりをしない
6「なぜ」で問い詰めない
7「最近どう?」「何でも聞いて」はNGワード
8 報連相はこうすれば上がってくる
9 部下から文書を受けた時にやってはいけないこと
10 セカンド・ハラスメントをしていませんか
第3章 ハラスメントにならない頼み方
1「何を伝えたか」ではなく、「どう伝わったか」がすべて
2 なぜお願いするのかを省略しない
3 伝わらないNGワードを使わない
4「指示」ではなくて「相談」する
5 難しい仕事はこう頼む
6 部下の責任をゼロにしない
7 部下はリーダーとしての言葉を聞きたいのです
第4章 ハラスメントしないための心得
1 まずは信頼関係の確保から
2 テレワークの導入で、よりハラスメントが増えている?
3「常識」という言葉に振り回されていませんか
4 短期的に怒りを鎮める方法を知っておく
5 自分がイライラしやすいのはどんな時か把握しておく
6 自分を褒める習慣を身につける
7 部下の長所を探しておこう
第5章 新しい時代のコミュニケーション
1 外見よりも中身を褒める
2 リモートワーク・ハラスメントが問題になっている
3 テクニカル・ハラスメントにも注意する
4 パーソナル・ハラスメントを防ぐため、
できる人ほど相手の外見に触れない
5 女性リーダーは男性部下をこう動かそう
6 女性の部下には結果よりプロセスを評価しよう
7 相談回数が多い女性 相談に来ない男性
8 なぜ多くの女性はリーダーになりたがらないのか
9 叱らないことがむしろ差別になる
10 時短勤務の部下への仕事の頼み方はどうすればいいか
11 優秀な部下に妊娠の報告を受けた時
12 働きすぎの女性部下に負荷を与えすぎていませんか
13 育休を申請してきた男性にはどう対応する?
14 解決よりもまずは共感から
あとがき
著者について
吉田 幸弘(ヨシダ ユキヒロ)
リフレッシュコミュニケーションズ代表
人財育成コンサルタント·上司向けコーチ
学校法人や外資系企業でリーダーに抜擢されたものの、
生来の怒りっぽさからチームをまとめることができず、
3度の降格人事を経験する。
その後「部下を承認し、補佐役に回るマネジメント」を会得し、
敏腕リーダーとなり、 チームの業績を劇的に向上させる。
現在は経営者中間管理職の方向けに、 人材育成、 チームビルディング、
売上げ改善の方法を中心としたコンサルティング活動を行っている。
全国の企業、商工会議所、官公庁などで講演·研修に登壇しており、
累計の受講者数は3万人を超えている。
わかりやすく実践的な内容が好評を得ている。
NHK朝のニュース番組 「おはよう日本」、日本経済新聞、
THE21、日経ウーマン、 ダイヤモンドオンライン
などメディアでも多数紹介されている。
著書は『リーダーの一流、二流、三流」(明日香出版社)
『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』
(ダイヤモンド社)など多数。